セルティが僕のことを好きだと言ってくれて、両思いになれて幸せだった。
今までもセルティと一緒だったけど、今は何もかもが輝いて見えた。
僕は仕事で外に出るのも嫌になるくらいセルティと過ごす時間を楽しんでいた。
『…新羅っ! 私の首が戻ってくるぞ!!!!』
ある日、セルティが慌てて僕のところへPDAを見せながら走ってきた。
てっきり何か怖いものでも見つけて僕に助けを求めてきたのだろうと文字を読んだ。
しかし、書いてあった文字は首が戻ってくるとのこと。
よっぽど嬉しかったのかビックリマークがたくさんついていた。
「…え、首が戻ってくるって。一体どこから…?」
『臨也が首を見つけたから私に返すから家まで来てくれって!』
「……臨也が? うーん、何かの冗談じゃないのかい? 君の反応を面白がってるだけかもしれないし…」
『それが、私の首の写真を送ってきたんだ、間違いないだろ?』
首があったなら満面の笑みを浮かべてるに違いないセルティが再びPDAをこちらに向けると
そこには確かにセルティの探していた首の写真が貼付されていた。
一体どこから持ってきたのかは知らないけど、なんでセルティに返そう思ったのか…。
以前もセルティの首を手にしていた時期があったと聞かされていたが、その時はそんな素振りは無かったのに。
何かよく分からないけど嫌な予感がする…。
「―って、セルティ? 今から首を取りに行くのかい?」
『あぁ、臨也が返してくれると言ってるうちに取りに行かないとな!』
「……あのさ、セルティ……怒らないで聞いてくれるかい?」
『どうしたんだ、新羅? あまり顔色がよくないけど…大丈夫か?』
もしも返ってきた言葉が僕が願っていない答えだとしたら…。
そう考えるとセルティに聞いて良いものなのか心配になってしまった。
そんな僕を見てセルティは心配してくれる姿に胸が痛んだ。
セルティには首を見つけて喜んで欲しい……だけど、だけど僕は…。
とても複雑な心境で気持ちが悶々と胸の中で暴れた。
とにかくセルティに心配させてはいけないと笑みを浮かべて見せた。
「あ、ううん。 大丈夫だよ~」
『で、話ってなんだ? 怒らないから言ってくれないか?』
「セルティは……首を手に入れたら…その…国に帰るとか言わない、よね?」
『お前は私が首を見つけたらさっさと国に帰る冷たいやつだと思ってるのか? …心外だな』
「ご、ごめんよ、セルティ!! そんな風に思ってないけど、なんだか怖くなっちゃって……怒ったかい?」
『怒ってないよ。 ありがとうな、新羅。 私のことを心配してくれて嬉しいよ』
微笑みながらPDAを見せてくるセルティに思わず抱きしめたい衝動に駆られて飛びついたら影に捕まった。
これはセルティなりの照れ隠しなんだと知ってる僕はセルティに釣られて微笑んだ。
そんな僕を見ながらため息を吐くように肩を竦めて何か文字をPDAに打ち込んでいた。
『…影に捕まって微笑むなんてホントに新羅は変わってるよな』
「だって、影だってセルティの一部なんだし…そう考えると僕は今セルティに抱きしめられてる事になるだろう?」
『………っ!!!』
僕がそう言った途端セルティは慌てて影を消して僕を解放した。
そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに…と思いつつそんな反応をするセルティを可愛いとも思った。
しかし、飛びついたところを捕まったので僕は宙に浮いたままだった訳で。
急に影から解放されると何も準備できてなかった僕は受け身も取れないまま床に落ちた。
「いった、痛いよ~セルティ…。 いきなり離すから思いっきり床で撃ったじゃないか~」
『い、いきなり飛びつくお前が悪いんだっ。 私は臨也の所に行ってくるから大人しく待ってろよ?』
「分かった。 大人しくお祝いの準備をしておくから、気を付けて行っておいで!」
『なるべく早く帰ってくるよ。 じゃあ、行ってくる!』
ヘルメットを片手に玄関を出ていくセルティを見送った後、僕はため息を吐いた。
セルティ自身が国へは帰らないと言ってくれても首を手にしたことによって変わる可能性もある。
なによりセルティは首をなくした時に記憶の一部を失っていたわけで。
手にしたことにより記憶が戻るのは確かであって……僕の中で不安はどんどん膨らむばかりで。
そんな事を考えても仕方がないと気持ちを切り替えてお祝いの準備をするべく、静雄に電話をかけた。
「…あ、静雄かい? 今日はセルティの首が見つかったからお祝いしてあげようかと思ってさ~」
〈セルティの首が? そりゃお祝いしないとだな! あー、何か適当に買ってそっち行くから飾り付けやっといてくれ〉
「分かった、じゃあ買い物は静雄に頼むね!」
〈あー…メンバーはどうするんだ? セルティと仲の良い来良のガキ達も呼ぶのか?〉
「呼びたいところだけど、確かテスト期間で忙しいはずだから…また日を改めてみんなでやろうかな~」
〈そうだな、じゃあまた後で……〉
うん、今日は3人で小さくお祝いをしよう。
とりあえず準備を急がないとセルティも帰って来ちゃうし、さっさと取り掛からないとねー!
そう思って部屋の中を片づけたり飾り付けをしたりしてる間に静雄もやってきて、後はセルティの帰りを待つだけになった。
しかし、セルティはいくら待っても帰ってこなかった。
連絡を入れても返事は返ってこないし、臨也に聞いてみれば首を受け取ってすぐ帰ったと言うし。
胸の中でザワザワと何かが騒ぎ立てて心配になった僕はセルティを探しに外へ出た。
とりあえず臨也の事務所に一度立ち寄ってみたのだが、やはりそこにセルティの姿はなかった。
建物を出て街とは反対の方向へ暫く進むと暗くなり始めた道の傍らに見慣れたものを見つけて僕は駆け寄った。
「………セルティのヘルメットだ…」
コレはセルティが家をでる時に持っていったヘルメット。
首を手に入れて不要になったから捨てたなんて考えられない…となるとセルティの身に何か起きた事になる。
これからどんどん空が暗くなっていくというのに、闇と同化するセルティを見つけることができるだろうか。
焦る気持ちを抑えつつ脇道を先に進むと小さな空き地にたどり着いた。
そして探していたセルティの姿がそこにあった。
近くにいた事にと安堵しセルティを呼ぼうとした時、彼女がこちらに気付き振り返った。
その瞬間、僕の脳内は一気に混乱に陥った。
「…セル、ティ……どうしたんだい? な、なんで…その格好に……」
『…………』
以前セルティが教えてくれたような甲冑を身に纏い、臨也から受け取った首を片手に僕を見下ろしていた。
これが本来のセルティの姿、なのかな……なんだか冷たい雰囲気を放っていて少し怖い。
「セルティの帰りを待ってたのに、なかなか帰ってこないから心配したんだよ?」
『………………』
「 ほら、静雄もお祝いしようと待ってるし。 セルティ、一緒に帰……う、わっ!!!」
何も反応を示さないセルティに戸惑いつつも一緒に帰ろう、と近付いた瞬間。
伸びてきた影に体を絡め取られて僕は地面に倒れ込んだ。
明らかにセルティの様子がおかしい。
いつもなら影で捕まえることはあっても絶対に人を傷付けたりしなかったのに。
………とりあえずここが街の中でなくて良かった。
情報はあっという間に回るから、元に戻った時にセルティが事実を知ってショックを受けるだろうしね。
もしかしたら昔の記憶が一気に戻ってきて混乱してるのかもしれない、そう思った。
何か言葉をかけて少しでも助けられたら…と思ってセルティに色々と話しかけてみた。
「セルティ、大丈夫かい? いきなり影を伸ばしてくるからビックリしたじゃないか~」
『…………』
「ねぇ、セルティ。 僕が渡したPDAはどうしたんだい? これじゃ君と話がしたくてもこれじゃ出来ないじゃないか~ 」
『…………』
「首も戻ってきたみたいだし、一緒に僕たちの家に帰ろうよ、セルティ~」
『…………!』
首の話をした瞬間無反応だったセルティが僅かに反応を示し、影の拘束が強くなった。
体が小さく悲鳴を上げ始めた中、僕は今までセルティが手加減をしてくれていたのだと気付いた。
家でセルティが怒って僕を影で捕まえる事はあったけど、こんなに力は強くなかった。
バランスを崩して倒れることがあっても影で衝撃を消してくれてたし、本当に嫌がれば影を解いてもくれた。
そう考えるとやはりセルティは今、理性を失って暴走している…のかもしれない。
今ここにいるセルティを操っているのは恐らく…首の方だろう。
首という単語に反応したあたり、また盗まれるのを警戒しているのだろう。
「デュラハン…さん?僕は首なんて狙ってないし、僕が大切に思ってるのはセルティなんだよ?」
『………』
「もちろん首である君も一緒にいてくれたらセルティが悲しまないでくれるから嬉しいんだけど」
やはり反応を返さないセルティを前に僕は恐る恐る尋ねる。
どうか帰らないと答えてほしかった。
セルティが居なくなってしまった世界なんて僕には無意味でしかない。
「………君はセルティを連れて故郷に帰ってしまうのかい?」
『…………』
「俺は、セルティが大好きだよ……だから、願わくば故郷に帰らないでほしい」
『…………』
「ずっと俺の側にいてほしいと思ってる、。 たとえ君に首があろうとなかろうと、俺の気持ちは変わらない」
『…………』
「ねぇ、セルティ……君は……ぐっ!!!!」
いくら話しかけても返事はない。
おまけに絞めてくる力を強くした上に、これ以上喋るなとでも言いたいのか口を覆われてしまった。
せめて今は首があるんだから何か一言でも喋ってほしい……セルティの声が聞きたい。
返事の変わりに態度で示すなんてさすが僕のセル…―っ!?
(「……セルティ? もしかして、君なのかい?」)
『…………』
(「俺の声が聞こえてるなら聞いてほしい…俺は君がどんな姿でも愛してる…だから……」)
『………』
必死にもごもごと喋るが言葉としてセルティに届いているのかどうか……。
なんだか段々と意識が朦朧としてきたし…困ったな。
眼が覚めた時に君が側にいなかったら、俺はどうしたらいいんだろう………
「新羅、新羅! おい、しっかりしろ!!」
「……あ、れ? …静雄?」
「あんまり帰りが遅いから心配になって探しにきたらお前が倒れるし、ビックリしただろうが」
「……っ!!! ―セルティ、セルティはっ!!? セル、ティは……う、痛ててて…」
「落ち着け新羅! 肋骨折ってるみたいだし、動かない方がいい」
眼を開けると静雄が心配そうに僕を覗き込んでいて、辺りは真っ暗だった。
慌てて体を起こしながらセルティを呼べば体中が悲鳴をあげて痛みが走って、静雄の膝上に頭を戻した。
どうやら駆けつけてくれた静雄は眼が覚めるまで介抱していてくれたようだ。
「…肋骨? あぁ、そうか絞められたんだっけ…」
「……それと……セルティなら…」
静雄が言葉を続けようとした時、遠くから誰かが駆け寄ってくる足音がした。
痛む体を動かしてそちらをみれば普段通りのライダースーツを身に纏ったセルティの姿が。
首を持ってないし、さっきみたいに殺気立ってもない。
いつものセルティだ……。
「セルティっ! 首は……?」
『心配かけてごめんな、新羅…大丈夫か?』
「大丈夫だよ、君が付けた傷跡なんて僕の一生の宝物さ!」
『……本当に大丈夫みたいだな、良かった』
安心したように笑っている(よう見える)セルティに僕も釣られて笑った。
だけど、先ほどまで持ってた首はないし…僕は夢でも見てたの…かな?
結局、なんだか詳しく聞いてはいけないような気がしてセルティに聞けなかった。
「じゃ、俺は帰るから、新羅を頼んだぜセルティ!」
『あぁ、分かった。 ……ありがとな、静雄』
「わっ!! 自分で歩けるから大丈夫だよ、セルティ~!」
『ダメだ、無理して怪我が酷くなったらどうするんだ! …それに、私が怪我をさせてしまったしな……』
「…セルティ。 俺は全然気にしてないから落ち込まないでよー」
『だけど……』
「ほら、そうやってどんどん悪い方に考えるの、セルティの悪い癖だよ? そんなセルティも好きだけどね! 」
『…………ありがとう、新羅』
その後、結局セルティの影に包まれて家まで運ばれてしまった。
でもあの時に感じた冷たさは全然なくてとても暖かくて心地良かった。
セルティに何があったのかは分からない。
首を見つけて受け取りに行って、受け取った後からおかしくなって…結局首はどこへいったのか。
それはきっとセルティにしか分からない…きっと知っちゃいけないんだろうな。
その日の夜、僕を心配したセルティが同じ部屋で一緒に寝てくれることになって。
なかなか眠れない僕に今日あった出来事を色々と話してくれた。
『首は確かに私の物だった。 臨也から受け取って建物を出てからの記憶があまりないんだ…』
「…首の影響なのか……」
『…恐らく。 今までの記憶が私の中に突然戻ってきて、最初はビックリしたよ』
セルティの話によると、首を手にした後から記憶が一気に戻ってきて怖かったこと。
その間の記憶があまり無いこと……途中で僕の声が聞こえて意識を取り戻したこと。
そしてセルティは首自身と戦っていたのだと言った。
首は主を見つけたら故郷に帰りたがっていて、セルティは此処に残ると言った。
暴走してる首はこちらの世界では忌み嫌われる扱いを受ける事が嫌で帰りたがっていた。
僕がいくらセルティに愛を叫んでも首は信じようとはしなかった。
だけど、意識を失った後もセルティに愛を呟く姿に心を動かされたらしい…僕にはその時の記憶は全くないのだけど。
首だってセルティの一部なんだし、きっと何か思いが届いたのだろう。
セルティも首に日本で過ごしてきた楽しい日々を色々と聞かせて落ち着かせたのだと言う。
この世界は色んな人がいて、だからこそ楽しいのだと。
みんなに好かれてばかりじゃ、きっとつまらないぞと言ってやったんだとセルティは笑っていた。
結局、首は興味を持って大事に保管してくれていた臨也に返したという。
首自身もそれを望んでいたし、セルティもそれでいいと思った。
まぁ、臨也が毎日首に話しかけていたと聞いた時にはビックリしたけどね。
「ねぇ、セルティ……もしもまた首を手に入れたら…その…国に帰るとか言わない、よね?」
『お前はまだ私が首を見つけたらさっさと国に帰る冷たいやつだと思ってるのか?』
「そんな事はないけどさ……」
『大丈夫だ、こんなに愛されてるのに側を離れるわけがないだろう?』
「―セルティっ!!!! 大好き、愛してるよ、セルティx~っ!!!!」
『バカ、騒いだら傷に響くぞ!』
「大丈夫、セルティが側にいてくれたら僕はそれで十分だよ……」
『………バカ新羅…』
きっとセルティがこの世界から消えてしまったら僕も消えてしまうに違いないだろう。
だって、僕の世界はセルティを中心に回っているのだから。
おしまい☆
最初に、すいません!
ぐだぐだに話を書きすぎる悪い癖のある如月です!
恐らく読んでて話の内容がさっぱりポンと分からない方いるんじゃないかと…(苦笑
とりあえず、首が見つかってセルティが首に意識を乗っ取られて新羅を傷付けちゃえばいいんじゃないかっていう。
それでもセルティが大好きでしょうがない新羅が可愛いと思います←
結局新羅の愛の大きさとセルティ自身の思いで首を鎮めて元通りの生活に戻ったとか違うとか…
首をあれほど探し求めてたのに新羅の方を選んだセルティ大好きっ!!!
あくまでもしも~の話なので苦情とかやめてくだs(ry/むしろ読んでくれてる人いないと思うけどw
ここまで読んでくださってありがとうございました!
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