ボクが渋谷を守ってあげなくちゃ…。
今までボクが助けてもらっていたように。
幽霊になって血盟城にとどまっていた渋谷は泣いていた。
……1人になってとても寂しいと。
『どう、して……こんな事に、なっちゃったんだろう、な…』
「………渋谷……」
偶然通りかかった部屋の中から聞こえてきた言葉。
その言葉に胸が締め付けられた。
誰とも交わる事の出来ない世界で渋谷は戸惑っていたんだ。

◆◆◆
『なぁ、村田……。おれさ、眞王廟に行けるのかな?』
「眞王廟に?」
『だって村田がくるまでオレって1人だし、つまんないからさ……』
「……渋谷…」
『それに、眞王廟には眞王もいるんだろ?』
「確かにいるけど、血盟城のみんなをおいたままでいいのかい?」
『どうせ喋れないし触れないし……居なくたって気付かないよ』
もしかしたら誰にも気付いてもらえなくて、みんなの側にいるのが辛かったのかもしれない。
だから渋谷は一緒に話の出来る人のいるところに行きたがったのかもしれない。
成仏した方が彼には1番いいのだろうけど、僕が嫌だったんだ。
こんなこと言ったら嫌われてしまうだろうか。
いや、彼のことだからきっとこの世界に残ってくれるに決まってる。
だからずるいと言われようと僕はそれを利用しようと思った。
渋谷を失っては僕は生きていけない。
何があっても渋谷を守り抜いてみせるさ。
◆◆◆
「猊下、血盟城から白鳩便が届いておりますが…」
「…………いったい誰から?」
渋谷の存在を血盟城の者に知らせずに眞王廟に戻った僕の元に手紙が届いた。
とても焦ったように書き殴った文字だった。
"陛下が血盟城に残ってらっしゃるみたいなのですが、
一体これはどういうことでしょうか?
お手数ではありますが今一度、血盟城にお越し下さい"
ついに渋谷がこの世界に残っているのがバレてしまった。
一体誰が気付いて……いや、考えなくても分かる気がする。
きっと彼しかいないはず。
「猊下っ!!陛下がこの世界に残っているのをどうして教えてくださらなかったのですか!?」
「いったい何を考えていらっしゃるんですかっ!?」
「……まったくもって信じられん…」
血盟城に戻ってから会議室でみんなに寄ってたかって言われた。
どうして渋谷が残っている事を教えなかったのだ、と。
だって、教えられるわけがないじゃないか…。
ヘタをすれば渋谷が消えてしまう1番の原因になってしまうというのに。
「……だからこそ、知られたくなかったんだ…」
ポツリと呟いた言葉は誰の耳に入ることなく消えていった。
◆◆◆
僕の頭の中には遠い昔の記憶も残っている。
その中に渋谷のようになってしまった人にも出会った事があった。
その時の人は女性だったけど…同じように誰にも見えない存在として生きていた。
彼女は魔力を使ってその存在を周りの者に知らせる事に成功した。
皆に声が聞こえるようになり、姿もたまに見せるようになった。
もちろん彼女の知人は皆、とても喜んださ。
……だけど、彼女は幽霊だ。
魔力を使えばその分だけ力が弱まっていく。
それに気付かず彼女は力を使い続け、皆と交流していったんだ。
結果、魂の中に溜まっていた魔力を使い果たした彼女は消えてしまった。
渋谷には絶対そうなっては欲しくなかった。
ずっと僕だけが話せる、このままの状態でいて欲しかった。
力を使わずに僕と喋れると知った時はとても嬉しかった……。
なのに、彼は気付いてしまった。
他の者に自分の存在を知らせる方法に。
最後にどんな結果が待っているかも知らずに……。
◆◆◆
渋谷は稀に見る魔力の強い魔王だった。
普通の人より長く話を交わせるがいずれは尽きる時がやってくる。
だけど、とても嬉しそうに…楽しそうに皆と話す渋谷には言えなかった。
見えてきた明るい光を僕が閉ざしてしまう事が、どうしても僕には出来なかったんだ。
『なぁ、村田……お前何か隠してるだろ?』
「………え?」
『オレ、長くはこの世界に居られないんだろ?』
「……渋谷……」
『別に言いたくないなら詳しく聞かないけどさ…』
「このまま力を使うと君は…この、世界から…消え、てしまうんだよっ!」
どうして君はこういう事には気付いてしまうのだろうか。
いつもはあんなにも無防備で何も考えていないようなのに。
耐えきれなくて僕は彼に告げてしまった。
それなのに、渋谷は笑って僕にありがとうって言ったんだ。
『そっか。教えてくれてありがとな、村田!』
「………渋谷…」
『泣くなよ、村田…』
「だって…僕は渋谷を失いたくなくて黙ってたのに…」
『大丈夫、オレは絶対に消えない。消えずに残ってみせるから』
「…渋谷?」
『お前がこれ以上泣かないようにオレが頑張って見せるから』
そういって僕の背中をバシバシと叩いてきた。
姿は見えないけど物に触れるようになったんだって、笑ってた。
でも、床に小さな水溜まりができていたのを僕は見てしまった。
渋谷はきっと笑っているけど泣いている。
僕が泣かせてしまったのだ。
◆◆◆
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